赤ちゃんと一緒に私の心も死んだ・・・「ゲド戦記」から考える

流産・死産・新生児死などで赤ちゃんとお別れしたあなたへ。
赤ちゃんの死は、まさにあなた自身の死にも等しいものだったでしょう。

 

大量出血などで、自分自身、実際に命の危険にさらされたかもしれません。
でも、たとえ体に関してはそうでなくても、
たしかに、この悲しい事件によって、あなたの一部分は死んだのです・・・

 

今回は、そんな喪失の悲しみについて、ゲド戦記Ⅱ「壊れた腕環」を通して考えます。

 

◆◆ ゲド戦記について ◆◆

ゲド戦記は、アメリカの作家ル・グウィンによるハイファンタジー小説のシリーズです。
魔法的な異世界での物語ですが、冒険の娯楽的要素よりも、登場人物が苦悩の中で成長する姿が心に残る作品群です。

 

スタジオ・ジブリが2006年にアニメ化したので、それでご存知の方も多いかもしれませんね。私は、あのアニメ版は好きではありませんが・・・。

 

◆◆ 名前を失くした巫女 ◆◆

さて、第2巻の主人公は、アチュアンの墓所と言われる神殿の大巫女です。
彼女は、先代の大巫女が死んだのと同日同時刻に生まれたことから大巫女の転生とされ、墓所の司として祭り上げられました。

 

彼女は生家から引き離され、本来の名前を取り上げられて、以降は「アルハ」と呼ばれるようになります。
アルハとは「喰らわれし者」という意味。闇の神々に喰われて名前のない存在になったとされるのです。

 

 

名前を失くす。
それは、本来の自分を失うのと同じこと。
つまり、彼女は「死んだ」のです。

 

 

◆◆ 赤ちゃんと一緒に死んだ心 ◆◆

赤ちゃんとお別れしたあなたは、赤ちゃんと一緒にあなたも死んでしまったような、そんな心の状態ではないでしょうか。

 

赤ちゃんとお別れしてから日が浅ければもちろんのこと、
何年たっても、今もまだ、闇の中に沈み込んでいるような状態かもしれません。たとえ、表向きは普通の顔を装って日常生活を送っていても。

 

大切な人との死別がもたらす心の闇は、
名前を失い、本来の自分を失って巫女になった主人公の姿と、重なるような気がするのです。

 

◆◆ 悲しんでいたいという思い ◆◆

物語では、大巫女である彼女の人生は、魔法使いゲドとの出会いによって変わっていくことになるのですが、一足飛びに輝く自由の世界へ飛び込むような話にはなりません。
不安や葛藤を感じ、恐れ迷う姿が、丁寧に描かれていきます。

 

赤ちゃんを失った私たちの心も、一気に元気に回復なんてしません。
むしろ悲しんでいたい。暗闇の中にとどまっていたい。そんな気持ちもあるのではないでしょうか。

 

 

◆◆ 物語が届けるメッセージ ◆◆

ゲド戦記Ⅱ「壊れた腕環」は、喪失の悲しみを直接扱った小説ではありませんが、
墓所や巫女、地下迷宮のイメージは、赤ちゃんを失ったあなたの心に何かを伝えてくれると思います。
ぜひ主人公と共に、暗闇の探索をしてみてください。

 

この物語が、あなたの心に、優しい風を届けてくれることを願って、ご紹介しました。

 

 

 

 

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